プロローグ

 私は今、この書を世に送り出すか否か大いに迷っています。それは、べつにこの書が世に受け入れられるかどうかということで悩んでいる訳でなく、この書により、野鯉釣りという悪魔的な魅力を持つ世界に、読者が引きずり込まれはしないかという懸念を抱いてのことです。
 何も、私如き経験も実績も学も無いものが、今まで多くの優れた先達の書が世にあるも拘わらず、今更二番煎じ、いやそれ以下のでがらしの講釈を…、とお思いの方も多いかと思われます。それには全く同感です。
  しかし、それでも書かずにはおれないのが、この道に迷い込んでしまった者の悲しき性だとご理解戴きたいのです。



  実際、この釣りを覚えた者の中には、野鯉釣りにのめり込み、気が付いたときには家庭も仕事も何もかも失っていたという話も良く聞きます。
  かく言う私も殆どそれに近い状態で、『病膏肓に入る』状態ですが、それゆえこの書を書き表そうと思い立った訳です。
 この書のコンセプトは、野鯉釣りの集大成です(筆者の)。今まで多くの先達たちによって築き上げられてきた膨大な経験から割り出されてきた断片的な技術の数々を、合理的かつ科学的に体系化しようという、壮大かつ無謀な試みです。
 これがどの程度成功するか、私には全く自信がありません。ただ、この書の読者がここに展開された理論及び技術論を実践することにより、その結果ははっきりするでしょう。 できるだけ分かりやすく解説したつもりですが、中には意味不明で難解と感じられる箇所もあるかと思いますが、それは筆者の言語の能力不足と思いお許し願いたいと思います。

序 章  野鯉釣りの魅力  目次